連日報道されていた台風の進路を考慮しながらの開催ではあったものの、京都発のアーティストが多くブッキングされたナノボロ初日には、いまの京都の音楽シーンの沸点を見逃してはならない!と開場時間前から多くの人が集まった。
今年のナノボロチームリーダーである村尾ひかりの「おはようございます!」が快活に響いて、ナノボロ2024が始まった。
雨の中、爽やかにスタートしたnano会場
京都発のアーティストが集結したナノボロ初日のトップバッターを務めたのは、ゆ~すほすてるだ。元々、egw(Vo&Gt)の宅録ユニットとして活動していたが、昨年末リリースの『引っ越ししたい』で、内省的な感情をあえて言葉にし、ポップミュージックとして表現するバンドスタイルが確立したゆ~すほすてる。
そんなバンドとして最高潮のいま、ナノボロに初出演を果たした。egwは、「ナノボロに出るということは、大学生の自分を成仏させること、だから来れてよかった!」と、3人のバンドメンバーとともに清々しい表情で言い切った。
ゆ~すほすてるが疾走感あるサウンドで駆け抜けたあと、「We are モラトリアム!From 鴨川“シー”サイド!」と悠々たる面持ちで登場したのはモラトリアム。
モラトリアムのメンバーは、平田裕(Dr&Cho)がナノボロ2日目出演の降之鳥の山根慶祐(Dr)の活動休止期間にサポートに入ったり、中村響太郎(Vo&Gt)がナノボロスタッフを務めたたりと、京都のバンドを支えている。
鴨川を“海”と捉えるモラトリアムは、ナカノ(Ba&Cho)の京都の街を歩くようなベースを原動力に、力強い音に溢れていた。
料理と音楽のかけ算で賑わうマドラグ会場
コロナの玉子サンドイッチが名物である喫茶マドラグも、この日はナノボロで音楽を味わう会場に様変わり。
ゴリラ祭ーズがインストゥルメンタルの「公園デビュー」を朗らかに演奏し始め、マドラグ会場が音楽の生演奏とともに温まっていく。
ギターと歌の古賀礼人と主に管楽器の平野駿、主に鍵盤楽器の舩越悠生の3人は、約10種類もの楽器を代わる代わる演奏した。
アコースティックギターのショーウエムラとマンドリンのJin Nakaokaのアドリブ演奏が繰り広げられ、お客さんも一緒にスキャットした。
台風が心配される中でもナノボロを“もちろん”開催するという連絡に驚きつつも、ナノボロのぶっ飛んでいるマインドを喜んだショーウエムラ。
アンコールの「バイバイ」で、アコースティックギターのシールドが壊れても生音でやり切った姿は、予定不調和を楽しむナノボロとショーウエムラのマインドが共鳴し、マドラグ会場を沸かせた。
スタッフの創作光る□□□ん家会場 1番の夏好きをナノボロで決めよう!と、□□□ん家の店長でありボロフェスタスタッフのミノウラヒロキが立ち上がり、“第1回夏王決定戦”が開催された。
参加したメンバーは、京都で活躍するバンドの面々であるカーミタカアキ(ULTRA CUB / 加速するラブズ)、渡辺りょう(the seadays)、みきりょうへい(POOLS)、モチヅキ・タンバリン・シャンシャン(踊る!ディスコ室町)だ。
夏曲イントロ・ドンやかき氷のシロップ当てクイズが行われ、初代夏王は、the seadaysの渡辺りょうに決定!
ナノボロでは、これまでも地元のミュージシャンたちの力を借りて、多くの企画やイベントを行ってきた。
夏王決定戦でもミノウラが中心となって常連のバンドマンたちを集め、お客さんも巻き込んだ熱いイベントとなった。
地元ミュージシャンをフックアップする側面を持ったナノボロで、□□□ん家というアットホームな空間だからこそできる楽しみ方と言える。
夏王決定戦を通じて、参加メンバーが自身のバンドで、今後さらに夏を感じさせる熱いパフォーマンスを見せてくれることを期待している。
突如、□□□ん家にUFOが現れた。よく見ると、UFOはなんとスタッフ手作りのピニャータ!
ピニャータは、メキシコのお祝い事によく使われる日本のくす玉のようなもので、紙で作られた型枠の中にお菓子を入れ、それを上から吊して棒で叩いて割るゲームのことだ。
1人のお客さんが名乗りをあげてピニャータを割ろうと思いっきり棒を振るもなかなか割れず、最終的に居合わせたお客さんとスタッフで協力して無事に割ることに成功。ピニャータから取り出されたクッキーやジャーキーを全員でおいしく食べた。
スタッフ発案の夏王決定戦からスタッフ手作りのピニャータや看板は、見ているだけでもテンションが上がり、自然とイベントに溶け込ませてくれる。
お客さんも演者も一緒になって楽しんで欲しい、そんな主催者の気持ちが見事に表現されていた。
こうして、ナノボロで高められたスタッフの創作への意欲が11月のボロフェスタでは爆発しているはずだ。
出演アーティストとスタッフのクリエイティビティの集大成をボロフェスタで見届けよう。
クライマックスのnano会場
livehouse nano会場の熱気は、終盤を迎えるにつれ沸騰していた。前日に東京でライヴがあり悪天候のなか、車で約10時間かけて京都に戻ってきたThe Slumbers。
天候に振り回された一日を思い返すように、急遽予定にはなかった「真夏のおとぎ話」を披露した。ラストは、The Slumbersがライヴをするたびに大切に歌い紡いできた「さらば、憧れ」を、お客さんと大熱唱し、フォークロックに酔いしれた。
The Slumbersのフォークで酔いが覚めないままに、今度は京都のファンクバンド・踊る!ディスコ室町の登場だ。
ミキクワカド(Vo)の内臓から直に響かせている渋い歌声で煽られる「NEW CLASSIC DANCE NUMBER」には、なすすべなく踊り狂い、コールアンドレスポンスもフィーバー状態の会場では一体感でフルコンボ。
今年からホーン隊が加わり、今までより一層ソウルフルに磨きをかけた踊る!ディスコ室町は、livehouse nanoのミラーボールが最も似合っていた。
1日目のトリは、 日本語の朴直な歌詞と豊かなメロディで着実にその名を知らしめ、京都のロックシーンに新たな革命を起こすことが期待されている水平線だ。
この日のメンバーは、MCも多く安東瑞登(Vo&Gt)は、水野龍之介(Ba)に「今日、テンション高いな」と言われていたが、水野自身も大の字にジャンプしていた。
「Downtown」で、無限(Dr)の軽やかなリズムに乗せられて横ステップを踏むメンバーとお客さん。この曲にてライヴを一時締めたが、すぐさまアンコールがかかる。
「ロールオーヴァー」を聴かずして、ナノボロ初日が終われるはずがない。
田嶋太一(Vo&Gt)は、「ロールオーヴァー」の詩とパーティ・ナビゲーターの土龍が語る個々人がオリジナルな楽しみ方を持って環境を楽しむことの大切さとの類似性を話し終えると、お客さん一人ひとりを見つめ、水平線のロックンロールを響かせた。
ナノボロ2024初日出演の京都のバンドの中には、90年代に隆起したブリッドポップのシンプルでキャッチーなサウンドの影響を感じさせるものも多く、けれどもそこに留まらず、令和のリスナーに届くように2024年のサウンドにアップデートしていたのが印象的だった。
さらにこの一日の盛り上がりを鑑みると、京都のバンドたちは、nanoや他のライヴハウスのイベントで切磋琢磨し、そのサウンドを磨き続けていることを強く感じることができた。
ナノボロ2024初日は、京都のバンドシーンのいまを、演者やお客さんの記憶に焼き付けた一日だった。しかし、この一日が思い出の奥に埋もれることはない。なぜなら、11月のボロフェスタ2024で、この一日の記憶が再び鮮やかに蘇るからだ。
11月のボロフェスタ2024への期待を残し、ナノボロ2024初日は、晴天の笑顔でDay2にバトンタッチした。
Text by 小池迪代
Photo by コマツトシオ
Photo by 定藤孝徳
Photo by スズカ