まっすぐな視線で愛を届ける音楽
綺麗な青色のワンピースでどすこいステージに登場したのは、うたと鍵盤で音楽を届ける遊佐春奈。どすこいステージの青い背景に溶け込むような透明感のある彼女は、静かにステージの真ん中に立ち「遊佐春奈と申します」と一言。すうっと息を吸って1曲目“everything everything everything”が始まる。ゆったりとした音楽に合わせてまっすぐ前を向いて歌う姿は、一瞬でお客さんを虜にした。ステージを飾る雲の装飾も相まって、まるで遊佐春奈の夢の中へ引きずり込まれてしまったかのように錯覚した。
2曲目“ミッドナイトタイムライン”からは少しずつ曲のテンポも上がっていき、軽やかな鍵盤の音と透き通った歌声を支えるように、重低音が少しずつ強くなっていく。緊張と共に心臓の鼓動がだんだん強くなっていくようなイメージが広がり、それにのせてメッセージ性の強い歌詞が自然と耳に入ってくる。「インターネットは君に愛を伝えるために生まれた」(“ミッドナイトタイムライン”の歌詞より)と堂々と歌う彼女を、お客さんたちは真剣な目で見守っていた。
遊佐春奈としてのソロ・プロジェクトのほかに、壊れかけのテープレコーダーズやHave a Nice Day!などにも参加している彼女。実は今年の4月20日に、全曲Have a Nice Day!のカバー曲というソロ・アルバム『Another Story Of Dystopia Romance』をリリースしたばかりである。「私の名前は知らなくても曲は知っているという人が居るのでは」と彼女は言う。今回のセットリストは全てそのアルバムから選曲したということだった。
最後、1曲目に演奏した“everything everything everything”をアップテンポに変え、歌い上げる。歌詞は同じであるはずなのに、こんなにもがらりと印象の変わるのかと信じられなかったが、お客さんたちは体を揺らすわけでもなくただまっすぐ彼女の歌声を聴いていた。全ての演奏を終えすっきりとした様子で笑う彼女の表情に、最後まで目が釘付けになっていた。
Photo byコマツトシオ
Text by 風希