児玉真吏奈

ナノボロ2022
ナノボロ2022

観る者はみな、世界観にどっぷりと浸かる

夕方のどすこいステージに立ったのは、3人組のエレクトロニック・ミュージック・ユニットSawa Angstromのメンバーでもある児玉真吏奈。ソロでのナノボロへの出演は今年が初となる。

開始早々、透き通るような歌声と独特なリリックが響く。色鮮やかなLEDを使用したMIDIパッドコントローラーを使いこなし、どすこいステージの色を染めてゆく。3曲目“透けた日”の「ただただ過ごせたら 日々を過ごせたら」と響く優しい歌声に、心がスッと浄化されるような感覚に陥る。そして“私にFを足してみて”を続け、会場は完全に彼女の世界観に入り込んでいった。

MCでは、今年の5月にセカンド・アルバム『Like a Wolf』をリリースし、その中には「野菜を噛む音」や「狼の遠吠えの音」を楽器で表したりした曲があると話す。「いろんなことに挑戦したのでよかったら聴いてほしいなと思って、今日は持ってきました」と言い、野菜から生まれた音を会場に流し“Part of the Soil”が始まると、一気にエレクトリックな空間になる。いったい、何の野菜を使った音なんだろう? という想像が膨らみ、会場はまるで、カラフルな野菜の色で彩られているかのように錯覚した。野菜のビートに合わせてお酒を片手にノリたくなる。そしてすぐさま、「狼の遠吠え」のリリックを使った“Like a Wolf”が響き渡り、どすこいステージに不思議な世界が広がった。

ソロでナノボロに出れたことが嬉しいし、次が最後の曲で寂しいと語りながら、「最後は自分が好きな曲を歌います」と話し、“牙ピアス”を演奏した。この曲は、彼女いわく「色んな価値観、考えを持った人がひとつのお月様に照らされているという曲」だ。破裂音のようなビートや途中曲調が変わったりと予想がつかない展開で、最後まで前のめりで聴いてしまいたくなるような曲だった。

「ありがとうございました! いえーい! 」と控えめな声色で伝え、彼女はステージ上に名残惜しさも残しつつライヴを終えた。一瞬で空間を自分色に変えてしまうパワーの強さに驚くとともに、心地いいグッド・ミュージックを聴けて嬉しい気持ちになった。是非また生で、彼女の歌を聴きたい。

Photo by コマツトシオ

Text by キムラアカネ