移ろいゆく街で
眞名子 新の音楽は街の匂いがする。例えば、夕方17時の夕飯の香りや夜19時のシャンプーの匂い。彼の楽曲はそういった風と共に消えてしまう生活の気配を拾い上げてくれるから、どすこい STAGEにシンデレラフィットだと思った。なぜなら、通路としての役割も果たす同ステージは常に開かれた場所であり、恒常的に空気が流れ続けているためだ。
「どすこい!」のポーズを開幕の合図にして、朗らかなトーンでティップオフしたライヴは、リピートされる「ここから始まる」のラインにポジティヴな印象を受ける新曲から、ゆっくりと足踏みしたくなる柔らかな新曲へと歩を進めていく。『カントリーサイドじゃ普通のこと』リリース以後の眞名子の足の向く先を伺い知れるブロックを経て、次にパフォーマンスされたのは「一駅」。すっかり暗くなった外が纏う夜の気配とKBSホール内から漏れ出る緊張感。その隙間を縫って、無駄かもしれないけれど大切な、スッと深呼吸のできる一夜が立ち現れる。終止符を打った「ライリーストーン」まで、会場を温もりで満たした眞名子にとって初めてのボロフェスタ。慎ましく生きていくなかで、ささやかな幸せを拾い集めていこう。そんな気づきを得た時、足元を風が走った気がした。
Text by 横堀つばさ
Photo by 昴(shohnophoto)