Le Makeup

ボロフェスタ2023
ボロフェスタ2023

浄化されるかのような時間

ボロフェスタ最終日も早くも中盤。16時前のGREEN SIDE STAGEに登場したのは、シンガーソングライターやプロデューサーとしてマルチに活動する大阪生まれのLe Makeupだ。
「Le Makeupです。よろしくお願いします」と簡単な挨拶をすると、ゆったりとライヴが始まった。

完全セルフ・プロデュース作となった最新アルバム『Odorata』からまず披露されたのが、「あたたかい陽、あたらしい朝」だ。おそらく春であろう季節の麗らかな陽気や大切だった「あなた」がどんな風に笑っていたのか、どんな日々を一緒に過ごしていたのかまでが、微細な歌詞によって情景となり、眼前に立ち現れる。

ライブ中盤、Le Makeupこと井入啓介の息を吸う音さえはっきりと聞こえる静寂の中、プレイされた「カラブリア」はあまりにも美しかった。どこまでも広がっていくサウンドがKBSホールを満たし、天井を突き抜けてまるで野外にいるかのような気分に。オーディエンスの手に握られたなみなみのお酒も、この頃には空になっていた。

「臭い道頓堀と首筋臭う香り」という純文学小説に劣らない対比が光る「Dress」で、ライヴはフィニッシュ。
35分間を通して、多くを語ることはなかったLe Makeup。彼の内省的な世界観に包まれながら、私たちは彼が創り出した体温を感じる物語を追体験していた。

Text by 横堀つばさ

Photo by 横矢和佳