病気マサノリ

ボロフェスタ2019
ボロフェスタ2019

マサノリ・ワールド

哀愁を感じるアコギを鳴らし、しわがれた渋めの歌声を震わせる、病気マサノリのリハーサルを観ながら本番までの時間を待っていた。どすこいステージの最終アクト一つ手前にライヴをするシンガー・ソング・ライターなのだから、〈ボロフェスタ2021〉で観たボギーのような可笑しくてウォーミーなライヴになるのだろうと期待していた。なぜなら終盤のタイムテーブルにキャスティングされた、無造作ヘアのアコギ1本の男性なのだから。これは、ボロフェスタが愛してしまう類のシンガー・ソング・ライターなのだろうと期待してしまう。

突然、楽器をなにも持たず「だんだん! ばばば、だんだん! ばばば」といった具合に、口頭でビートを刻んだかと思えば、なにやら言葉らしきものも聴こえてくる。リズムのとり方と声量、ダンスを含めてまで勢いが凄まじかったので、はじめは事態を呑み込めなかったのだが、口頭ビートが簡素なグルーヴを作り出していく内に察してきた。楽器を鳴らさない、ひとり口頭バンドスタイルの人だと。私の中で「病気マサノリ系」という概念が爆誕した。よく見ると前面がビリビリに破れた黒タイツを履いている。

ライヴは非常にカオスティックでハードボイルドな可笑しみを放っており、ところどころ笑いを溢す観客も見受けられた。とくに後半15分程の怒涛の情報量が凄まじく、印象に残っている。やっとギターをもったかと思えばアルペジオで爪弾き、急に暗い声だなと思ったら英語で歌っており、そのまま英語でひとり二役の男女(?)の掛け合いをする。ちょっといい感じなハーモニカが交えるフォークソング“田舎”を披露したあとに、突拍子もなく中国語が大半を占める楽曲“中国”を歌い切る。そこで「おわり!」と投げ捨てるように叫ぶと、ステージから飛び降り、走り去っていった。

Photo by shohnophoto

Text by 増井