Homecomings

ボロフェスタ2019
ボロフェスタ2019

彼女たちの現在地

涼しくもなく寒くもない、でもちょっと肌寒いような、ちょうどいいこの季節が来ると、
「ああ、ボロフェスタだな」と思うのと同時に、Homecomingsの季節が来たな、と思ってしまう。

畳野彩加(Vo./Gt.)の力強くまっすぐな歌声が響き、「I Want You Back」から始まった。石田成美(Dr./Cho) の弾むドラミングとともに、どこかくすぐったいような笑みを見せる畳野の声のぬくもりに浸った。「i care」と続き、福田穂那美(Ba./Cho)のあったかいベースラインに会場はふんわりと包まれた。曲名通りのテーマであるけれど、物事に対する平等な視野、意見をねじ伏せたりせずにただ寄り添う心が音でうつし出される。

特に素晴らしかったのは「shadow boxer」。Homecomingsの持つメロディアスな部分を凝縮させた歌メロに、福富優樹(Gt.)の厚みのあって重たいギターが響く。会場は赤いライトに照らされるなか、本筋を突くようで、別のことも匂わせるような歌詞がちらつく。“見えないものとされている差別”と闘うことをうたっているこの曲は、幸せな空間のなかに見えてこない怒りを浮き彫りにしているようで、居心地のよさと悪さが同居している。アンバランスな感覚に、バンドとしての新境地を感じた。

アンコールで披露された「Songbirds」は、かつてのアンコールでもあり、オープニングでも披露されている曲。始まりも終わりも、人を動かす根底のエネルギーは一緒なんだな、と思ったりする。ステンドグラスはアウトロのコーラスでゆっくりと開き始め、意外なタイミングに心が踊った。光に反射した観客の目もきらきらとしていて、トリにふさわしい幸せな空間が広がっていた。

今回は、シングル曲に重きを置いたセットリスト。メジャー・デビューを経て、来年は10周年を迎える彼女たちの現在地を示すようなパフォーマンスだった。大人っぽい落ち着きも、洗練された出で立ちも、少しずつ変化があって、いつも新しい。私たちはここボロフェスタで一緒に成長している、と思ってしまう。「ここに帰ってこれることを誇りに思う。来年も開催できたら」と福富が語っていたように、年輪の厚みをお互いしみじみ感じながら、22年目のフェスティバルも彼らとともにいたいと思った。

Photo by リン
Text by 梶原綾乃