幽体コミュニケーションズ

ナノボロフェスタ2021
ナノボロフェスタ2021

Photo by瀬藤 育 Text by石上 温大

圧倒的な美しさ。
まさに世界遺産のような音楽だ!

「山口将司(bed)」からバトンを引き継ぎ、どすこいステージに登場したのは、2019年に大学内のサークルのイベントをきっかけにpaya(Vo,Gu)といしし(Vo)の2人により結成された、地元京都のバンド「幽体コミュニケーションズ」だ。サポートギターに吉居大輝を迎え、2020年には「カクバリズムの文化祭」にも出演した。

1曲目は「夏に墜落」。 “和” を感じさせるようなゆったりとしたクラシックギターの音色とともに、圧倒的な自然を前に無力な人間の様相を嬉しんだ詩をpayaがクールに詠い、そのままの流れでいししが歌い出す。payaといししが織りなす儚く、透明感のあるハーモニーに身を委ね、身体が融けてしまいそうになるほど魅了された。あるいは日々の煮え切らない思いや鬱々としたモノがみるみるデトックスされて、天に蒸発していくような、居心地の良さを感じた。歌声が途切れるその隙間にさえ、切なさや愛おしさなど、複雑な感情が滲み、侘び寂びを感じずにはいられなかった。

夏の曲は続き、「FROGS」へ。フォークやヒップホップなど、様々な音楽からの影響を感じさせるニュー・ミクスチャーな風合いのナンバーで、オーディエンスの体が縦にも横にも揺れていた。

贅沢な時間は続き、名曲「幽体よ」へ。“幽体されど夢を見る/ゼロバイトの心臓は脈打った”、 “bpmと足並みが/触れ合う瞬間をただ待っている”と歌われた詩は、どうしても自己矛盾を抱えた人間の肉体と精神のギャップに向き合っている。たとえ、頭の中では生きていても仕方がないと思っていたとしても、体は絶対に息をすることを止めず動き続ける。そのリアルについて考えさせられた歌だった。

次は、街の喧騒を圧縮コピーして混濁させた、チープでストレンジなサウンドから、彼らの代表曲「ショートショート」へ。まさにショートショートのように、少ない言葉数でリスナーのイマジネーションを豊かに広げる歌詞世界が素晴らしかった。後半にかけてバンドのグルーヴ感を引き出していき、後奏では、吉居が弾く柔らかな輝きの宿ったエレキギターの音色が脳内をゆらゆらとさせた。

ラストは春の歌「ぱれいど」を演奏してステージを終えた。
3人の佇まいが自由で心地良い雰囲気を醸し、幽体コミュニケーションズの音楽世界の圧倒的な美しさを浴びて充足感のあるライヴだった。

筆者としては、じっくりじっくり時間を掛けて彼らの音楽を味わいたいと思い、ライヴ終わりにCDと歌詞カードを買ったが、歌詞カードが1個ずつどれも異なりとても趣があった。そして、歌詞カードで文字を追いながら聴く幽体コミュニケーションズが最高だったので、ぜひ試してみてほしいと思う。