ふちがみとふなと

ナノボロフェスタ2021
ナノボロフェスタ2021

Photo by瀬藤 育 Text by石上 温大

30年歌とコントラバスで表現してきた “ふちふな” の生活感溢れる音楽性

「アイアムアイ」からバトンを引き継ぎ、どすこいステージに登場したのは、渕上純子(Vo,ピアニカ等)と船戸博史(コントラバス,Ch)によるアコースティック・デュオ。在住の京都を拠点に、お客さんと目の合う距離感でのライヴを中心に活動しており、コントラバスと歌のみという編成と、選曲・編曲の面白さに定評がある。

まず1曲目は英国のシンガー・ソング・ライター、ギルバート・オサリバンの「Alone Again(bikke訳)」、次にレイ・チャールズの1962年のナンバー「愛さずにいられない」と、往年の名曲も歌謡曲を聴いて育った渕上の歌とジャズで培った船戸のテクニックにより、 “ふちがみとふなと” の音楽のイメージに結びつけており、抜群のカバーセンスを発揮してスタート。素晴らしい歌は時代の変遷とともに歌の持つ意味を変化させ続け、今この瞬間の私たちのために作られたのではないかと信じさせてくれる力強さがある。ふちふなのカバーを聴き、オリジナルの楽曲も聴いてみたくなった。

渕上が「なぜ現実は思った通りにはならん」とひとりごち、「思ったとおりにはならない」をプレイ。タイトル通り「思った通りにならん」と繰り返す歌詞の面白さと船戸が紡ぎ出すゆったりとしたグルーヴが、会場を素朴でアットホームな空気感で包み込み、渕上と船戸の2人からは物凄い大きな温もりを感じた。

次は昨年5年ぶりにリリースしたフルアルバムから表題曲「日時計」。2人が奏でる音楽はまるで人間の呼吸や感情の起伏そのもののように有機的に響く。

渕上が「みんなの力を借りてエイトビートを完成させたい!」と手拍子をリクエストし、「犬も喰わない」へ。生活感溢れる内容は、思わず我が家の歌だと思ってしまうほどだ。

「大好きな漫画を歌にした」と曲紹介を行い、「だってチューだもん」でふちふなのステージを締めた。

奇を衒わないメッセージや情景をコンパクトに、そしてメロディーと歌われた楽曲の振れ幅は恐ろしく広く、「ナノボロフェスタ2021」最年長の地力を示した。一曲一曲が珠玉の名場面としての存在感を放つライヴだった。^