ノイズカレー

ナノボロフェスタ2021
ナノボロフェスタ2021

Photo by中村 和平
Text by石上 温大

音でカレーを味わう?!??!
“カレー” と “ノイズ” の化学反応を見た。

「ふちがみとふなと」からバトンを引き継ぎ、どすこいステージに登場したのは、「カレーの調理音」でライヴを演奏するノイズミュージック・アーティスト「ノイズカレー」だ。世の中のノイズ・ミュージシャンがそれぞれの解釈でノイズを奏でる中、彼は「カレーの調理音」に音楽性を見出した。調理と音楽を融合した独創的なパフォーマンスは、東京アンダーグラウンドシーンで密かに注目を集めており、存在自体がジャンルのような、鬼才アーティストである。猫戦の井出内陸(Dr)曰く、この日のアーティスト楽屋でも「ノイズカレー」とは何者なのかという会話が巻き起こっていたらしい。

もともとは、ロックやパンク、オルタナ系のバンドでドラムを叩いていたり、ワイルドサイド東京(新宿にあるライブハウス)のスタッフとしてフードを作っていたりしたが、気がついたら「ノイズカレー」として、現在の形のパフォーマンスを行うようになったそうだ。

どすこいステージには大勢のお客さんが集まり、彼の一挙手一投足に対して好奇の視線を送っていた。

まず第一に、玉ねぎをくし切りに、茄子を半月切りに包丁で切っていくことで生まれる「ザクッ」・「トントントン」・「シュッ」などの音が会場中に響き渡った。静寂が雑然とした日常の生活音を浮き彫りにしたようだった。

エコーのかかった野菜を切る音に段々とディレイがかかってきて小さな笑いが起こったが、不思議とお客さんの笑い声もノイズカレーの曲を構成する一部のように思えた。

小鍋に油をひき、切った野菜にスパイスを加え、混ぜ合わせていく。お玉で具材を炒める「ジュー」という音や、鍋底を混ぜる時のお玉の「カンカッ」という音などをマイクが拾い、エフェクターを通じて様々な音に変換する。まるで音でカレーを味わうように様々な音の味(聴こえ方)がした。

小鍋からエキゾチックでスパイシーな香りが漂ってくるとともに、彼は時たまオペラ歌手のような歌い方で奇声を発し始めた。

彼の叫び声は激しさを増していき、そのベクトルはカレーに向かっている。

マイクをマーシャルアンプに繋ぎノイズを奏で出し、穏やかな調理風景が一転して、轟音と発狂が入り混じるカオスかつシュールな空間に変貌した。

ノイズが耳を劈く中、カレー作りは佳境に入り、彼が菜箸と包丁をスティックにして小鍋とボールを小気味良く叩いたり、まるでカレーにノイズを浴びせるように、その発生源であるマーシャルアンプに小鍋を突き出したりと、この時代の、この季節の、この場所の、この時間にいなければ生涯観ることのなかっただろうアバンギャルドなパフォーマンスが続く。

しかし、突然そしてようやく彼が口を開き、「できましたー!」と報告。すると、場内は拍手に包まれたが、筆者には、純粋にカレーができたことに喜べるお客さんも不思議に感じた。また、ノイズカレーを楽しめるマインドが逞しいとも思った。

その後、カレーはお客さんに配られることになり、彼の前に長蛇の列ができた。

ノイズが染み渡ったカレーは意外にも口当たりがまろやかで、独特な辛さが癖になる本格派のグリーンカレーだった。ノイズがカレーを極限進化させたのだろうか。

バランスの悪いシーソーの上に奇跡的に全部が乗っているような独特なブッキングが魅力の「ナノボロフェスタ」には相応しいアーティストだと思った。

想像力と感受性が刺激され、二度と忘れられないほどのインパクトを残した。
調理音はリズミカルで、まるで音楽のように聴こえることはあるが、まさか調理そのものを音楽的パフォーマンスにしてしまうなんて度肝を抜かれた。自分の想像力の限界を突きつけられたライヴだった。