後藤まりこ アコースティックviolence POP

ナノボロフェスタ2021
ナノボロフェスタ2021

Photo byりん
Text by石上 温大

後藤まりこが突き付けた明日の糧になるような前向きな言葉たち

「幽体コミュニケーションズ」からバトンを引き継ぎ、どすこいステージに登場したのは、彼女自身が “歌” と向き合った弾き語りのプロジェクト「後藤まりこ アコースティックviolence POP」だ。昨年12月に1stフルアルバム『POP』、今年5月に1stシングル『アイラブユーは止まらない』をリリースし、後藤まりこ史上、最も赤裸々で素直な表現を行っている。

1曲目は、 “頑張ることは美しい” と歌う、燻っている人のための応援歌「ふあっきんでいず」。人生の上り下りのバイオリズムの中で、日々前進するために藻掻き、葛藤する姿勢を肯定し、力強く背中を押してくれる歌詞が、彼女の豊かな表現力によりガシガシ伝わってくる。現実には、励ましというのはそんなに都合良くやって来ないものだが、自分自身を奮い立たせ、前を向くためには、励ましだったり肯定的な言葉、あるいはこういった歌が確実に必要なのだと、この時この歌を聴いて痛感した。

「つらい気持ちは今日まででサヨナラ!」と曲紹介し、椅子の上に正座して2曲目「明日の糧」へ。和やかに爪弾かれるアコースティックギターの温かな音色が、聴く者をハートウォーミングな気持ちにさせ、ポジティブな言葉がスーッと入ってきて胸の中で大きく広がる。

「今日が今年最後のライヴです」と報告し、3曲目「ラストワルツ」へ。BPMが一気に上昇し、鬼気迫る勢いで心躍るメロディーが押し寄せて来る。彼女のプレイアビリティの高さに翻弄された。

続けて「恋は病気」を演奏し、5曲目「アイラブユーは止まらない」へ。リアルな感情を体現するように様々な表情を見せる彼女の歌声が響き渡る。ラストにかけて昇り詰めていく彼女の姿は、それ自体が稀代のシンガーとしての儚さと輝きを備えたものだった。また、オーディエンスはこの日のライヴを噛み締めるように、一曲一曲大切に聴いているように見えた。

「アコースティックをちゃんとやろうとした時に初めて作った曲です」と呟き、「江ノ島メモリー」をエモーショナルに歌い上げ、ライヴを締めた。幸せな充足感で満ちたフロアから大きな拍手が送られ、筆者としても万感の思いだった。

彼女が歌う歌の支配力に圧倒されたライヴだった。また、彼女からオーディエンスに向かって突き付けられた、明日の糧になるような前向きな言葉たちが嬉しかった。