街の底から愛を込めて
音楽イベントなのに、目の前には真剣な表情で大根の桂剥きを披露する板前さんがいる。ひとり、ふたりと途中から人がステージに上がってきたと思うと、剥かれた大根を跪いて支え出す。しかもよく見ればBGMに流れていたCoccoの「強く儚い者たち」を口ずさんでいるのだ。目からも耳からも衝撃のスタートに混乱していると、桂剥きを終えた3人はそれぞれ自分の楽器を手にした。すると先ほどの光景から一転「こんばんは オラ達ねじ梅タッシと思い出ナンセンス どうぞよろしくね」という軽快な自己紹介ソング「テーマ」と共に彼らのステージは始まる。
ねじ梅タッシと思い出ナンセンスとは、板前が本職のねじ梅タッシ(Vo&Gt)を中心に結成された、ギター2本とドラムで奏でられるロック・バンドである。11年ぶりにボロフェスタに登場した彼らは、不器用でまっすぐな思いを、どこか懐かしいメロディに乗せて、確実に1音ずつ鳴らしていく。「夕暮れと同じ色の大切な気持ちを、街の底から愛を込めて」と話すねじ梅タッシ。ライヴを見ればすぐに彼らの人柄が分かるような、混じり気のない純粋な愛のある演奏に、いつのまにか私たちはほっと胸を撫で下ろして丸くなることができた。
彼らはMCで3年ぶりに完全復活を遂げたボロフェスタについて触れ、「コロナ禍で3人で作った歌をやります」と「ワルツ」を披露。人間味あふれる彼らの歌詞やメロディに、この3年間いろんなことを我慢しながら模索してきた私たちの努力が報われていくようだった。
「トゲトゲ」で終わりを迎えたねじ梅タッシと思い出ナンセンス。「めちゃめちゃ愛を込めてラブソングを歌います」という言葉通りに、街の底STAGEは優しい雰囲気に包まれる。「愛してる」という歌詞が繰り返されるとフロアからもシンガロングが巻き起こり、まっすぐな彼らの思いがまっすぐお客さんたちへと伝わった、奇跡みたいな締めくくりとなった。