ボロフェスタ2022
ボロフェスタ2022

一歩ずつ歩み寄ってくれる人間味

Ribet townsが残した明るい空気に包まれるどすこいSTAGEへ登場したのは、京都生まれのシンガー・ソング・ライター、湧。赤と黒の可愛らしい衣装に黒髪のボブという特徴のある出立ちで、ステージの真ん中に堂々と立っている。アメイジング ミスiD2021の受賞やSNSでの活動も印象的。ロビーは、彼女の登場を楽しみに待つ人でいっぱいになった。彼女もまた嬉しそうに「めちゃくちゃ人が居る」とあどけない表情で笑う。

MCでは、去年の末に上京したエピソードを披露。「東京なんて何もないじゃないかと思っていたが、東京に行ったことのない人がそう言うのは違うと思ったから上京した」といい、1曲目は「都心の窓から」。

ステージ上の彼女はどことなく憂いを帯びていて、彼女の作り出す空気にいつのまにか引き込まれていってしまう。なぜその曲が生まれたのか、どういう意味のタイトルなのか、曲が生まれた時の気持ち。彼女は私たちにたくさんの瞬間を話してくれて、1曲1曲大事に壊れないように扱っていることがひしひしと伝わってきた。その気持ちを受け取ったお客さんたちもまた、真剣に彼女の世界観に浸っていく。その時のどすこいSTAGEは妙に空気が落ち着いていたのに、心は少しだけそわそわ落ち着かなかった。

今回彼女が話してくれたエピソードの中では特に、今年10月に発表されたアルバム『ソーリョベルク』についての話が印象に残っている。京都で育った彼女は生まれた時から宗教が身近だったらしい。恋人や友達、家族、誰もが宗教になり得るなと思った、だから“僧侶”からとって『ソーリョベルク』というタイトルにした、という。そんな話の後、ラストに披露されたのはアルバムのラストソングにもなっている「人生は暇つぶし」。「難しいことはまぁいいや、君が居るならどうでもいいや」と歌う歌詞を聴いて、先ほどのエピソードがより一層頭で鮮明になっていく。身の回りにどんなことが起こっても、結局好きだと思える存在が居れば他はどうなったっていいや、と誰しも思ったことがあるのではないだろうか。彼女の話をちゃんと飲み込めた時、もっと彼女を好きになれるのだと思った。

ライヴの度に少しずつ“湧”という中身を知ることができる、そして少しずつ身近な存在になっていく。彼女の曲に味を付け彩りを添えるのは、私たちの予想を裏切ってくる彼女の人間性の豊かさがあってこそだと感じるステージになった。

Photo by コマツトシオ
Text by 風希