長谷川健一

ナノボロフェスタ2020
ナノボロフェスタ2020

Text by 石上温大
Photo by 廣瀬有美

こんな時代の人々の心に優しく寄り添う
長谷川健一の歌

ナノボロフェスタ2020、どすこいステージのトリを務めるのは、地元京都のシンガー・ソング・ライター、長谷川健一だ。

1曲目は友人Kan Sanoが長谷川に提供した楽曲「Gauguin Town」だった。長谷川のどこまでも誠実で真摯な歌声は優しくも切なく、他の誰でもない目の前の “あなた” に直接語りかけるように切実に響く。筆者は言葉の説得力に、長くキャリアを積み重ねてきた長谷川の地力を思い知らされた。また、長谷川のアコギから紡ぎ出される一音一音には、長谷川自身から染み出してくるような、長谷川健一そのもののような、体温に似た温かさを感じた。

「空の色」、「美しい影」と続き、長谷川の書く「街」や「景色」、「影」など、日常の光景に落とし込まれた歌詞がそのままメロディーに乗って飛び込んでくる。

次は「空っぽの両手でまた始める/僕もここから歌い出すから」とリスタートを歌う「友だちが歌うから」。奇を衒わないメッセージが心にスーッと入ってきて、胸の中に広がる。集まったオーディエンスは歌詞やメロディーにじっくりと耳を傾け、感慨深く聴き入っているようだった。

「ボロフェスタ10周年のエンドロールで流してくれて、凄く嬉しかった」と伝え、その「夜明け前」へ。いつもの街の光景から滲み出てくるような唯一無比なメロディーには、オーディエンス一人ひとりのメランコリアに寄り添ってくれる包容力がある。

ラストは「うたうは喜び」。「ららら」と歌うシーンにも切なさや愛しさが滲んでいた。彼の歌は力んでいないし、はしゃいでもいない。生活のトーンをちゃんと見極めている。

彼の歌を聴いていると、自分の感情に素直になれて、思わず泣きそうになった。彼の歌は悲しくも美しい、美しくも儚いこの日常を肯定する特別な歌だ。それは彼の歌がかけがえのない日々と暮らしに捧げ尽くされているからであろう。

長谷川健一でナノボロフェスタ2020どすこいステージが幕を閉じた。