浦上想起

ナノボロフェスタ2020
ナノボロフェスタ2020

Text by 石上温大
Photo by まい

時代丸ごと癒やすような心のこもった歌声で魅せた
ファンタジックでポップな世界観

B玉からバトンを引き継ぎ、Never Dieステージに登場したのは、2019年よりひとり宅録、打ち込み音楽家として活動を始めたソロ・ユニット「浦上想起」だ。作詞、作曲、編曲、演奏、歌唱の全てをひとりでこなすマルチミュージシャンである。

1曲目は「世界を変える第一歩は、鏡に映る目の前の自分が変わることだ」というシンプルだが、今も切実に響くメッセージを歌った、マイケル・ジャクソンの1987年のナンバー「Man in the Mirror」。
彼の美意識に貫かれた音と丹念な歌声が、その歌詞世界をより一層くっきりと “今” に浮かび上がらせる。芸術度の高い音楽性や多重録音で作り出す鬼才ぶりがフィーチャーされがちだが、筆者には心のこもった歌唱が印象的で、1曲目からとても魅了された。

次は5月配信リリースとなった「新映画天国」。ジャンルレスなアイデアとポップネスを秀逸に融合させるセンスは唯一無二で、グラマラスなまでの麗しさを持ったメロディが広大なKBSホールを包み込み、まるで浦上想起の単独コンサートに来ているようだった。

贅沢な時間は続き、処女作「芸術と治療」へ。
彼が弾くピアノの音色は壮麗かつセンシュアルで、永遠に聴いていたいとその場にいた誰もが思ったはずだ。

ラストは今月21日にリリースされたばかりの新曲「未熟な夜想」でフィニッシュ。「森のアレにも/薔薇のコレにも/劣ることのない美を前にして数秒間佇むのさ」という歌詞は、今この瞬間に、この場所で、彼の圧倒的に美しい音楽を前に立ち尽くす、筆者を含むオーディエンスそのものだった。

音像がリアリティを持って機能していたライヴだった。
集まったオーディエンスは好奇な視線を送り続け、彼が生み出す一音一音に集中して聴き入っていた。

現在初の自主アルバムの配信を予定中。もう「浦上想起」というアーティストから目が離せない。