病める時も健やかなる時も
toeからバトンを引き継ぎ、GREEN SIDE STAGEに登場したのは、ボロフェスタには2021年から2回目の出演となるWANG GUNG BANDだ。
ライヴは「SUNDAY」から。うららかに歌い、観る者の日々の苛立ちやモヤモヤを解毒していく。せわしく過ぎる日々の中で摩耗した心があるがままの様相に移ろいゆく。心のビタミン補給みたいな朗らかな音が鼓膜を撫でた。全体を通してホールには、彼らが濾過したような、清浄で崇高な空気感があった。なんでこんなに心が満たされるのか。
「SPICE」から「KITTO」へ。今を溶かすように、心においしい声とメロディに耳を澄ませた。思い出が巡る。あの人から愛されなかったという欠落を埋めるための堂々巡りの中で、出会ってしまうから始まるという感覚や、あの人に値する存在でありたいという切なる願い。会話を交わしたあとの余韻。愛したいという情熱。心に穴が空いたようなって本当なのだと感じた帰り道。恋の呪い。覚めない夢を漂うようなテンポだった。そして聴くことは、思い出すことだった。
「バイバイサマー」から「ハイウェイ」へ。杉本周太(Gt,Vo)の歌声は、繊細にして激しい。声ですべて伝わる。さらにクロスオーバーで鮮彩な音像は、とても素敵で視界が煌く。そして巧みなコーラスワークとファンクな演奏陣が曲に艶を出してくる。みなが一聴惚れしてゆらゆらと体を揺らした。どこをとっても耳が幸せで、おススメするのを迷っちゃうぐらい好きだ。
「風を追いかけて」から「素敵な相棒」へ。取るに足らない、わたし達の日常が流れていく。平凡な日々が奇跡そのものだったと気づく。そんな歌詞が大好物だ。
過去を省みると、後悔まみれ。でもそんな夜はサヨナラに強くなれないすべての人にとっての平凡な数時間だろう。自分だけが知ってる絶望は、心地よいバンドサウンドとやさしいメロディに救われてしまうくらいには弱い。ライヴがあった今日のおかげで、またしばらく頑張っていけそうだ。
Photo by shohnophoto
Text by 石上温大