PULASEI

ボロフェスタ2023
ボロフェスタ2023

自分を新しくする自由を

三重県を拠点とするPULASEIは、松永孝史と強力大介によるフリースタイル・ヒップホップデュオだ。
松永がマイクの前に立ち、強力がSP-404SXを操作する。何を歌うのだろうと思っていると、サンプラーから幾何学的音像が紡がれ、松永が呟くように声で表現していく。

「ぷ ら せ い」「プ ら Sё い」と、ひらがなのようなカタカナのような、不可思議な響きだ。
「ありがとうここに呼んでくれて」と松永が言い、目を閉じた。
そのままマイクを握りしめ、強力がどすこいSTAGEの音を構成していく。
次に強力が流したのは小さな子どもの話し声がするイントロだった。「PULASEI」と呟きを繰り返す松永。

松永は白い封筒から紙を取り出した。
「思い出すわ、思い出します、ムード、このムード。揺れる音符、眠る人、ベンチに腰かけて、眠る人の、それはそう水族館の午後、平日、水族館の午後を思い出します」と、ポエトリーリーディングに近いようなパフォーマンスを披露。

さらに手紙を取り出しては、「松永ですよ、小学4年のときやったな、しょうもないことでケンカして」と実際あったかどうかは定かでないが思い出を小噺としてパッケージング。
「うまく描けている絵が変になるのが怖くて手を加えられずに終わりました」と先生の悲しそうな顔の印象の話をオチにした小噺を強力の音に乗せていく。

最後の曲では黒いクラリネットを持ち、オーディエンスの後ろにある傘立てにプラスチック製のクラリネットを何も言わず立てて置き去りに。
他にもパソコンのねじを外しながらフロアを歩くなど、観客の度肝を抜いた。
加えて、バッテリーケースを外すがそこには元々バッテリーが入っていないなど不条理を積み上げる。

舞台上にあるのに使われないマラカス、観客の視界に入らないススキ。
現代美術を鑑賞しているようで分からないことも多かったが、表現には正解も不正解も存在せず、自由で良いのだとステージを観て改めて感じた。

Text by 松下愛

Photo by 吉田結衣