くるり

ボロフェスタ2021
ボロフェスタ2021

絆と愛が詰まった祝祭

いよいよ最終アクトとなった、ボロフェスタ3日目。前半戦の掉尾を飾るのは、結成25周年を迎えた京都のバンド、くるりだ。ジャンルに関係なく「音楽」への好奇心を原動力に、20年間歩み続けた京都のフェス、ボロフェスタにとって初の二週連続開催となった幕開けに、くるりほど相応しいアクトは他にいないだろう。この日のライヴは、20周年への祝辞をふんだんに感じる内容であっただけではなく、聴くものを新たな境地へと誘う、始まりのライヴでもあった。

ライヴ前の会場には、そのときを待ち焦がれた多くの観客の熱気が充満していた。筆者が会場に着いたころには、ツアー・メンバーの松本 大樹(Gt)、野崎 泰弘(Key)、石若 駿(Dr)のみがステージ上でサウンド・チェックをしていたのだが、そこに岸田 繁(Vo,Gt)、佐藤 征史(Ba)が登場すると、歓声にも似た、もう待ちきれないと言いたげな拍手が自然と起こった。

しばらくすると、唐突に岸田が“太陽のブルース”を歌い始める。マイク・チェックの一環だろうと、しみじみと聴き入っていた。すると、岸田の歌に引っ張られるように、あれよあれよとバンド一体となって演奏を始めたのだ。「大事なことは 忘れたりしないように」と繰り返し歌う。まるで会場に居る人たちへ向けて、「どうか音楽が好きな気持ちを忘れないように」と、祈るような姿であった。体感としてはまる一曲分、贅沢な時間を過ごした。

仕切り直して盛大な拍手の中、飄々とした振る舞いで「おめでとうございます、よろしくお願いします」と一言、すかさず一曲目の“コンチネンタル”。「君たちは泣きながら理解に苦しむ~」というパンチラインが耳に残る、ユーモアと捻くれが効いた選曲に胸が踊る。いよいよライヴが始まったのだ。

“琥珀色の街、上海蟹の朝”では鼓動を預け、陶然と酔いしれるほかない、ジャジーで極上グルーヴを披露。美しい音像とまばゆい情景とが、言葉にならない気持ちを映し出すかのようなパフォーマンスであった。矢継ぎ早にブルージーかつ強靭な“watituti”、トリッキーで奇抜なナンバー“益荒男さん”、神妙なシンセが響く“アナーキー・イン・ザ・ムジーク”と、ハードなアンサンブルが際立つナンバーが続く。最高峰のバンド・サウンドであるにも関わらず、味の店のような聴き心地を彷彿させる音像が堪らなく心地よい。確たるライヴ・バンドとして脂にのる5人の、いまのくるりは生で観るべきだと強く思わせるパフォーマンスであった。

怒涛のパフォーマンスが会場に残存する間に、ふと岸田が「ボロフェスタと関係ない話なんですけど、野球の曲作ったんですよね。曲の最後に新庄って言うんですけど……」とMCをする。岸田によると、野球愛を詰め込んだ“野球”は、新庄剛志(元野球選手)のトライアウト時に作成し始めた楽曲とのこと。そして、わずか2日前に北海道日本ハムファイターズの監督に就任した新庄。運命のいたずらだろうか。ボロフェスタで“野球”を披露する環境は整っていた。笑えてかっこいいライヴに一体となった会場は、この日のハイライトだったと思う。

“野球”が収録されているアルバム『天才の愛』をはじめ、数々の音源やライヴ、活動などからいまなお尽きることのない「音楽」への愛を注ぐ、結成25周年を迎えたくるり。その道程には、20周年のボロフェスタの歩みも、きっと傍にあったはずだ。「アーティスト」「イベント」としてステップアップし続けること、「音楽」を愛し続けることで、互いに刺激し合ってきたのだろう。終幕へと近づいていく中、くるりは盛大なお祝いをするかのように、そして穏やかかつ情感たっぷりに、“ばらの花”、“ハイウェイ”、“潮風のアリア”を奏でた。青春映画を観終えたあとのカタルシスにも近い情景とともに、清々しいサウンドが鼓膜を撫でていく。「成功を祈っております。ボロフェスタに大きな拍手を」と述べたのち、アンコール曲“HOW TO GO”を披露。猛暑日の太陽のように重く、重なり合うこのバンド・サウンドと共に「想像を超える日」まで歩みを止めないでいたい。

Photo by コマツトシオ
Text by 増井