mekakushe

ボロフェスタ2022
ボロフェスタ2022

夜の街の底に降り立つは、儚さと強さを兼ね備えたmekakushe

ここ街の底STAGEは、ホール内では完結できないアーティストを集めたラインナップ。「まさにThis is ボロフェスタ!」であるという土龍の案内の後登場したのは、シンガー・ソング・ライターのmekakushe(メカクシー)だ。

1曲目の「泣いてしまう」から、その存在感に目が釘付けになる。可愛らしさを残しつつも身体にスッと入ってくるような、繊細かつ透き通った声が印象的だ。続く「想うということ」では、「世界が忘れちゃっても 忘れられないでいられるかな」と詩を紡ぐ。弾むような声と儚げな声が合わさり何とも心地よい。しかし、隙間風のようなシンセの音のあと始まった3曲目「ばらの花」では、「風になれ 強くなれ 悲しむなんてもう時代遅れだ」と訴えかける。彼女の歌や紡ぐ言葉、その中には力強さがあり、キーボードを叩く音の強さも相まって芯の強さを感じる。MCでは彼女のほんわかした雰囲気が漂い、緩いトークタイムのような穏やかな時間が流れる。まさにmekakusheという分身が、音楽に歌詞にのせて、私たちのもとに届いてきているのかもしれない、と思わされるような彼女のギャップが堪らない。

そして、10月19日にリリースした新曲「グレープフルーツ」を披露。これは、初めて片思いの女の子の曲を書こうと思って書いた曲だという。今までは恋愛などテーマを縛って書いたことはなく、色んな捉え方ができたらいいなと“君と僕の関係性の歌”を書いてきたそう。だが今回、「作家の仕事をする中で、自分の曲作りに変化があったのかもしれない」ときっかけを話す。その言葉通り、片想いを表現する詩的な儚さが詰め込まれた曲は、まあるいグレープフルーツといった可愛らしい表現でさえ、柑橘系の爽やかさを残しつつも、脳内にダイレクトに染み渡る感覚を覚える。

最後に 「箱庭宇宙」を伸びやかな高音を響かせながら堂々と歌う姿からは、ライヴがひとりでは心細かったと話す彼女の姿はなかった。そんな30分を見届けた観客からは温かい拍手が送られ、歌声だけでなく詩の繊細さも魅力であるmekakusheのポテンシャルを示した時間だったと感じた。

Photo by 羽場功太郎
Text by キムラアカネ