羊文学

ボロフェスタ2021
ボロフェスタ2021

憂いを帯びた轟音が前進させる、確たるロック・ライヴ

少しの間があり、会場には神妙な空気が漂っていた。それもそのはず、前回のボロフェスタ出場時から、ほんの2年の間で大躍進を遂げている羊文学。まだお昼過ぎ頃のORANGE SIDE STAGEには、羊文学への期待を膨らませる多くの観客が集っていた。

リハーサルでは、悲壮感のあるリフが心を撫でるように響く、“Step”を披露。「優しくなりたい」と憂いをもった歌声が、おぼろげな麗しさを纏い、こみ上げるようにこだまする。そのやり切れなさを抱えながらも優しくありたいと祈るような姿が、羊文学の原点なのだろうと思った。

さて、Juana Molina “Vive Solo”をSE曲に羊文学が会場に登場する。まるで明晰夢を観ているような気分に浸っていたところ、メンバー3人が向き合い、轟音が響く“mother”で、私たちを目覚めさせた。ソリッドで深みのあるドラムと絞り出すようなギター、そして音圧で幕を開けていくようなベースが高揚感を誘い、気が付くと身体は心地よく疼いていた。

“人間だった”では、訴えかけるような気概を感じる歌声を中枢に、繊細さと歪さを併せ持つバンド・アンサンブルに会場が突き動かされた。この力強さがとても好きだ。“powers”では、「正解は何か、関係がないぜ、いつも君しか選べない」と、この場に塗りつけるように、言葉を残した。

羊文学の曲は、心の奥底に佇む、自転車のようである。いつも鼓舞するわけではないが、振り返ると、スッと前を向けるようになる心地。名曲“夜を越えて”に乗せて、残り僅かなボロフェスタを、確かに前進させたように思う。

Photo by shohnophoto

Text by 増井