No Fun

ボロフェスタ2022
ボロフェスタ2022

ありのままを愛そうと思った

もうボロフェスタも半分が終わり、残りの2日間が始まってしまった。きっとあと2日も一瞬で終わってしまうのだろう。寂しさと忙しさとまだまだ盛り上がるぞという意気込み、様々な思いが入り混じった今日。街の底STAGEのトップバッターを務めたのは、2020年に京都で結成されたNo Fun。実はナノボロ2022にも出演が決まっていたのだが、昨今の状況により惜しくもキャンセルとなってしまっていた。その時の悔しさを乗り越えて、KBSホールでやっと見ることができる幸せを噛みしめながら地下への階段を一歩ずつ下りていく。

「よっしゃ! No Fun始めます!」と内田秋(Vo)の開幕宣言。ピンクとオレンジが混ざった不思議な色の照明に照らされて浮遊感漂う空気の中、じわりじわりと音圧が上がっていく。力強いフロアドラムが私たちの耳を突き抜けた時、一気に音像が広がって1曲目「Ash」が私たちの心を開放していった。

その時その時の感情を全てさらけ出して色んな表情を見せてくれる彼らのライヴは、心が洗われるような感覚がある。全部を出し尽くしてしまっていつか突然消えてしまうかもしれない、という儚さや危うさも、強く惹きつけられる理由のひとつだ。何も飾らない“そのまま”を見せつけられるたび、日々抱える怒りや憎しみ、汚い感情も全部ちゃんと認めてあげようと思えるようになっていく。「真実、汚れたものって絶対綺麗になるんすよ」とフロアへ訴えかける秋。「お前らが汚したもの、なんぼでも掃除するよ」と語る彼の鋭い視線を見つめ返せば、もうどうなったって大丈夫だ! という自信が湧いてきて、根拠は全くないけれど、なんだが強くなれた気がした。

「lowday」で大合唱が巻き起こり、高ぶった感情のまま「Against New Era」へ。体全部を振り乱して演奏する彼らの演奏を聴いていると、キャパ50人ほどの小さい街の底STAGEもなぜか狭さを感じない。どこまでも空間が広がっていって、終わりの見えない心地よさに胸が高鳴った。きゅんとした。熱気に包まれたフロアを縦横無尽に駆け回り、アンプや照明の台の上、様々なものに登ってパフォーマンスする秋やそれを支えるメンバーの姿も、今やNo Funのライヴではお馴染みの光景だ。場所がどこであろうと、いつも通りの彼らに心底安心する。

特別なものや理由を探して、それを持っていないことに自信を無くしたり悲しくなったり。日々生きていると、誰にもそんな瞬間はきっとあるだろう。けれどもNo Funが居れば、そんな自分も愛せるかもしれないと、生きる希望の見えたライヴだった。

Photo by コマツトシオ
Text by 風希