街と人を刻む時
KBSホールエントランスのどすこいステージ脇から見える外はもう暗く、ステージ全体に、ふんわりビールの匂いが漂っている。
LOSTAGEでベースと歌を担当する五味岳久が、ひとり白いTシャツ姿に白い帽子で登場し、ギターとハーモニカのみで歌を始めた。
ライヴMCは「楽屋がKOTORIとimaiと一緒で」というフェスならではのトークだ。「サブスクは儲からない」という話をしたというが、五味はLOSTAGEでもサブスクを解禁していない。「あれ(サブスク)を使わなくても、こんなにたくさんの人に聴いてもらえる」と話した。
様々なことが便利になっていき、時の流れが早く感じる世の中で、フェスやライヴがある。これは、じっくり音楽や芸術を味わう時間だ。音楽のサブスク解禁論については、様々なアーティストが議題にあげるが、聴いている我々にとって重要なことは、音楽を聴く時間の流れの違いだと感じた。
この時間を大切にしたいというお客さんの想いが、五味の音に乗せて響いている気がした。
観客の中にはその音に浸り、思わず気持ちよくなったのか、うとうととしている者もいたほどだ。
「11月の曲を」と言い、始まった「母乳」。
寒暖差が激しいこの季節は、人の温もりが恋しい。そんな季節だから言葉が大切だと伝わる。
その優しい歌声とギターの音色に包み込まれる。
ラストの曲は、11年前に娘が生まれた時に作った曲だという「NAGISA」。
人間だから道に迷ったり悲しくなったりするが、生きているだけで、人がいるだけで時は刻み込まれていく。
その記憶と記録が、今ここに続いてることが伝わってくる、そんなステージだった。