モラトリアム

ボロフェスタ2023
ボロフェスタ2023

22歳の焦燥と未来

野外ブースではミッションイン:トムがゆるゆると開催され、いよいよボロフェスタのコンロが付いてきたところで街の底ステージもスタート。
トップバッターはモラトリアム。
フロアには彼らと同年代であろう人々や彼らの親世代に見える人々まで、幅広い年齢層のオーディエンスが集まった。
ボロフェスタの主宰・MC土龍が「街の底こそボロフェスタだから。ぜんぶひっくるめて遊んで帰って」 という言葉を残し、ついにモラトリアムが登場。

「We are モラトリアム」でスタートし、ゆらゆらした演奏を響かせながら音の沼に引きずり込んでいく。
モラトリアムは2021年コロナ禍中に結成し、2022年度の〈十代白書〉では準グランプリを受賞した経験もある勢いのあるバンドだ。

1曲目の演奏が終わり、中村響太郎(Vo&Gt)の「よろしくお願いします」という挨拶からはその堅実さが伺える。

堅実さを持った若者から放たれる「陽炎」は、未来を憂い悲哀し、眺めたような曲だ。
しかしながら、人生を踏みしめるようなナカノ(Ba&Cho)によるベースの音圧が心強い。

京都の芸術大学に通いながら今年度のホストバンドとして会場を一緒につくってきたモラトリアム。

中村(Vo&Gt)の「俺たちはボロフェスタと同い年なんすよ。この先もボロフェスタとともに歳をとっていこうと思います」という強い意志から「黎明」に入る。
平田祐(Dr&Cho)のドラムからは焦燥感を感じ、これまでの人生とこれからの希望への物語を映しているようだった。

“モラトリアム”という単語は社会人となることを引き伸ばしているという揶揄に使われることもある。
モラトリアムというバンドは、若さゆえの嘆きを体現している。
彼らの嘆きが学生の街・京都から放たれることに意味がある。
モラトリアムの嘆きは、社会に不安を抱えている人々のもとへ必ずや届き、そっと寄り添ってくれるだろう。
いつか“モラトリアム”が揶揄として使われない日がくるまで、彼らは京都から音楽を鳴らし続ける。

Text by 小池迪代

Photo by コマツトシオ