Homecomings

ボロフェスタ2021
ボロフェスタ2021

思い出を眺めながら、バンドの現在地を鳴らす

GREEN SIDE STAGEのトリを飾るのは、今年メジャー・デビュー・アルバム『MOVING DAYS』をリリースするなどして、活動の舞台を大きく伸張させた4ピース・バンド、Homecomings。結成時から京都を拠点に活動してきたHomecomingsだが、その活動最初期から何度もボロフェスタに出演し続けている、つまり何度でも成長を重ねてきたバンドでもある。さらにはメンバー全員が揃った京都でのライヴはご無沙汰ということもあり、同じ場所を共有したすべての人たちは、一層緊張感をもった期待に胸を膨らませていたことだろう。

 思い出がぎゅっと詰まった場所には、まだ見ぬ明日への活力を灯す、不思議な力があるはずだ。過ぎ去る時間を窓際から眺めるように、次の朝を迎えようとするバンドの現在地を言明したライヴであった。

 前回出演時のアンコール曲“Songbirds”でライヴの幕が開けた。スッと馴染んでいく柔らかなバンド・アンサンブルが、観客たちとの距離をゆっくりと縮めながら、淡々と紡がれていく。普段通りの一日がなぜか鮮やかに感じるときが、きっとあると思うのだが、その時の景色を映し出すかのような音像で会場を染め上げていた。ここから疾走感がこみ上げるように溢れる“HURTS”と2013年にKBSホールを(ステンドグラスで)鮮やかに照らした“I WANT YOU BACK”を披露。間奏中、時折笑顔が溢れる姿が窺え、そのたびにロビーに飾られていた写真、2013年のHomecomingsの姿が思い浮かび、密かにベテラン・スタッフのような気持ちで浸らせていただいていた。

「京都の街が夜紙みたいに見えたときに作った」という“PAPER TOWN”は、ゆるやかに情感を加速させていくナンバーだ。この楽曲の制作時は、既に働き始めていた福田 穂那美(Ba,Cho)、石田成美(Dr,Cho)に追いつく形で、畳野彩加(Vo,Gt)と福富優樹(Gt)が大学を卒業し、メンバー全員が社会人になった年だったという。だからこそ、終わりを予感させるムードが漂いつつも、不思議と悲しくはなく、むしろ清々しさを纏い響いてくるのだろうか。そして、長い間拠点としていた京都から、旅立ちを宣言するように『MOVING DAYS』収録曲“Here”を披露した。じんわりと熱が加えられるリズム隊に、そのすぐ傍で優雅な歌声と、暖かで情感豊かなギターが、伸びやかになびく。途中、つかの間の静寂から、重厚なリズムを軸にぐんと音像が広がるシーンがあったのだが、突然吹く海風のような迫力があり、本ライヴでもっともグッとくる瞬間であったと思う。

しかし、この劇的な展開であっさりとは終わらない。“Blue Hour”、“Cakes”と、夜と朝の狭間に、ただただ夢中に過ごしただけの時間を宝物のように惜しむ楽曲たちが、エンドロール曲として名残惜しそうに奏でられた。夜通し遊び尽くした後の、まぶたが重い朝方の静寂とした空気が恋しくなる。そして、私は既にHomecomingsが恋しい。KBS期の申し子として、またいつかボロフェスタでライヴが観たい。

Photo by リン

Text by 増井