クリープハイプ

ボロフェスタ2022
ボロフェスタ2022

これからも続いていくことを心から願ったステージ

超満員のORANGE SIDE STAGE前。会場内には期待と緊張と興奮と疲労と寂しさと、全部の感情が入り混じっていて混沌とした空気が漂っている。それはそれは息が詰まりそうになるほどに。肌が痛くなるような、ホール内全員からのエネルギーをまっすぐに浴びながら登場してくれたのは、今年メジャー・デビューから10周年を迎えたクリープハイプだ。彼らは音出しから、ボロフェスタの感触を確かめるように丁寧に音を鳴らす。これから始まる終幕を目の前にして、全身の血流がよくなって、ふつふつと心の底が熱くなるのを感じていた。

ボロフェスタのパーティーナビゲーターでありLive House nanoの店長でもある土龍は、彼らについて「本当に大好きなんです」と語る。昨年は尾崎世界観(Vo&Gt)の体調不良により惜しくもキャンセルとなってしまっていた、という背景があっての今年の出演。尾崎も登場後すぐのMCでボロフェスタを“大事なフェス”と表現しながら「めちゃくちゃ悔しくて」と当時の気持ちを話してくれた。「今日来れてよかったです、来てくれてありがとう」。リベンジが叶ったボロフェスタのステージで彼らの話を聞いているうちに、いつのまにか言葉が歌へと変わっていき、1曲目「ナイトオンザプラネット」へ。ミラーボールがキラキラと輝いて、その瞬間、まるで星空の中にいるかのように錯覚する。みんなが心から待ちわびたクリープハイプに、既に会場内は熱を帯びている。

続いて2曲目。ボーカルが長谷川カオナシ(Ba)へと移り、彼の歌う「火まつり」で胸をジリジリと焦がされる。会場は真っ赤な照明に照らされていて、彼らも私たちも、少しずつ燃え上がっていった。

スタートから6曲もぶっ通しで駆け抜けてくれたクリープハイプ。「しょうもな」の熱く投げかけられるメッセージに胸を打たれたり、「キケンナアソビ」で突然まざまざと大人を見せつけられたり。小泉拓(Dr)の縁の下の力持ちという言葉が似合うドラムのビートに、カオナシが確かな重低音を刻んでいく。そこに小川幸慈(Gt)が踊るようにステップを踏みながらギターで色をつけ、その固く踏みしめられた土台に乗せて、鋭いメロディをなぞる尾崎の声が聴いている人の鼓膜を震わせる。私たちはひたすらに、彼らの様々な表情に翻弄されていった。けれどもちゃんと瞬間瞬間で一目惚れしてしまうようにドキドキさせてくれることに、ひどく安心を覚える瞬間もあった。

「久しぶりにこういう景色が見られた」と、たくさんの人で埋め尽くされた光景を嬉しそうに眺めるメンバーたちによって、「リグレット」の演奏が始まる。「ずっと君を探してたんだよ こんな所にいたのか」。そんな歌詞を聴いていると、突然失われてしまったライヴやフェスといった私たちの居場所がやっと戻ってきたことを、改めて実感する。なぜならば、本当に、ずっと私たちが探し求めてきた光景が目の前に広がっていたのだから。中には涙ぐんでいるお客さんやスタッフも見受けられた。理由を探すとキリが無いけど、それがなんだか嬉しい。ここまでしっかりルールに則って音楽が鳴る場所を守りぬくことができた私たち自身を、誇りに思えた瞬間だった。

途中、クリープハイプがメジャーデビューから10周年を迎えたことに触れ、感慨深いと尾崎は語る。「土龍さん! やりましたよ10年!」と尾崎が投げかけると「やったね!」と応える土龍。「(当時は届ける相手が)土龍さんしかいなかったのが、今はお客さんがいっぱいいるから」と破顔した尾崎に、見ているお客さんたちからも喜びの声が漏れていく。これまで見守り続けてくれた土龍がその場にいるという安心感に胸を撫でおろしたのか、心から楽しそうな彼らから一瞬たりとも目が離せなかった。

最後に「この先もボロフェスタがずっと続いていくように願いを込めて」と、彼らは「ねがいり」を披露。そんな彼らの願いが届いたのだろうか、小川のギターソロのタイミングでステンドグラスの幕が開かれていった。ステンドグラス越しの鮮やかで優しい光に包まれて、彼らから生まれる音が私たちの隅々へと届いていく。

“何もないただの日”を積み重ねた先にあるボロフェスタ、これからもずっと続いていくことが当たり前となる未来を祈るばかり。こうしてボロフェスタ2022は全てが終わってしまう。また明日から私たちのいつもの通りの日々がやってきてしまうことに少し焦りつつも、これからの日々でこぼれてしまった大事な物を搔き集めて、またこの場所でクリープハイプに会えたらよいなと思った。

Photo by リン
Text by 風希