People In The Box

ボロフェスタ2023
ボロフェスタ2023

ライヴハウスで観られる芸術

白に近い薄い水色のライトに包まれ、「People In The Boxです」という声を静かにステージに落とした波多野裕文(Vo&Gt)。ライトは深い青に変わり、「かみさま」へ。ふわりと優しい声色から始まる。「いってらっしゃい、みてらっしゃい かみさまだけが嘘をつく」(“かみさま”の歌詞より)と、ひらがなが多い歌詞は童話のようで、物語の始まりを想起させる。

続く曲は今年リリースした通算8枚目のアルバム『Camera Obscura』から「スマート製品」。横から赤いライトが波多野と山口大吾(Dr)を、上から青いライトが福井健太(Ba)を照らし、空気ががらりと一変する。福井のコーラスが曲に多層的響きを足し、骨太の5弦ベースがどっしりと支えている。
「ボロフェスタ12年ぶりだそうです。ありがとうございます」と波多野が言い、昔からこの曲が好きだというファンも多い「旧市街」へ。変拍子を多用する曲ではあるが、ひざでリズムを取りながら思い思いにPeople In The Boxの音楽に浸る客が見受けられた。サビでの3人のコーラスや、技巧的なドラムを見ているうちに曲の世界に引きずり込まれていく。最後に波多野がジャンプし、心臓の強い鼓動のようなベースが福井によって繋がれると、次の「ミネルヴァ」へ。「かけがえのあるたったひとつになりたい?」(“ミネルヴァ”の歌詞より)と歌う波多野の声がKBSホールに溶けていく。曲が終わり静かになると、我に返ったように拍手が起こった。

ステージがオレンジ色に染まり、「螺旋をほどく話」が始まる。収録されているアルバム『Camera Obscura』には暗い部屋という意味があり、箱に小さな穴を開け、一点を通る光線を抽出し投影像を得る装置を指す。抽出した光は上下逆さまに射影される。そのアルバムの意味の通り、「螺旋をほどく話」は多角的な解釈ができる曲だ。この曲の歌詞にある螺旋とは遺伝子なのか、アンモナイトのことなのか、はたまた技術の発展と衰退のことを指しているのか。シリアスに歌い上げた「螺旋をほどく話」のあとはMCが挟まれた。山口の「こんにちは!」という明るくて朗らかな声が響く。「京都南インター知ってる?」「餃子の王将はG-OS」と唐突な話で客をなごませる場面もあった。

赤いライトが灯され、「聖者たち」が演奏される。アニメ『東京喰種』のエンディングテーマとして海外人気が高い曲で、口ずさむ客も多かった。キメのあと、最後は「水晶体に漂う世界」へと入っていく。演奏は残響をともないながら消えていく。ボロフェスタ12年ぶりとは思えないほどに馴染むPeople In The Boxは、詩の巧さや曲を伝えきる技術を進化させて帰ってきたのだ。

Text by 松下愛

Photo by コマツトシオ